「うまくなりたい」と、ほとんどのベーシストは思っていることでしょう。私もその1人です。

では、「うまい」とはどういうことか、どのような技術が必要なのか、ということについて今回は考えてみたいと思います。

さて、ジャズ・ベーシストのなかには、なんとなくクラシック音楽のコントラバス奏者に対して負い目を感じている方がいらっしゃるのではないでしょうか。それが、「ジャズ・ベーシストは、(クラシックのように)うまい必要はない」だとか、「ジャズはテクニックじゃない。魂だ」とか、口にして公言しないまでも、なんとなくそのように考えている方がいらっしゃるように感じます。

ちなみに、私はクラシックの奏者のレッスンを受けているのですが、クラシックのコントラバス奏者のなかにはジャズという音楽について、とても要求される技術が高いと考えているようです。特に、リズムに対する感覚はとてもシビアで、非常に高い身体能力が要求されるという意見でした。

また、私が技術的なことに関してもっとも影響を受けた教則本のなかで著者のオランダ人ベーシスト、ハイン・ヴァン・デ・ヘイン氏は、ジャズ・ベーシストで生計を立てるのは大変だから、まずは、地元のプロの交響楽団にでも就職して生活の基盤を作りなさい、というような助言をしています。少なくとも日本では考えられない感覚ですが、少なくとも、ジャズのベーシストが「下手でもよい(上手い必要はない)」ということはなさそうです。

では、ジャズを演奏するために必要なスキルはなんでしょうか。

私は、次のように考えています。

  • 音楽そのものの理解
  • 演奏中に起こっていることを捉える耳と判断力
  • 楽器の演奏スキル

実際は順不同なのですが、この順番で考えてみたいと思います。

音楽そのものの理解

「音楽」とは、「ジャズ」と置き換えても「楽曲」と置き換えてもよいのですが、ある曲を演奏するためには、楽曲の構成やスタイルについての理解が必要です。そして、そのためにはコード、スケール、リズム、演奏スタイルなどについての理解が不可欠でしょう。

ベーシストはリーダーとして演奏することもありますが、誰かのバンドのサポートとして参加することも少なくないはずです。そのとき、知らない曲や、知っている曲であっても未知のアレンジやアイディアで演奏する機会は少なくないはずです。このとき、適切な判断ができるかどうかは、音楽そのものの理解度に大きく左右されるはずです。

音楽そのものの理解はどちらかといえば「知識」のように考えがちですが、パフォーマンスそのものに大きな影響を与えることから、とても重要であることに違いありません。

演奏中に起こっていることを捉える耳と判断力

ジャズは即興演奏ですから、演奏中に様々なことが起こります。譜面が不十分なこともあるでしょう。

したがって、演奏中に何が起こっているかを正確に理解して的確な判断をする必要性があります。

他のメンバーの表現に気づかずに適切に対応できなかったという苦い経験は誰にでもあるでしょう。加えて、録音を聞き返したとき、演奏中に気づかなかったことに気付かされたという方もいらっしゃるでしょう。

このように、演奏中に他のメンバーの音を正確に捉えて判断するということはなかなか難しいことです。

「他のメンバーの音」とは実に様々な情報をあらわします。たとえば、リピートを抜けて次のセクションに進むというような構成についての情報、リタルダンドやフェルマータなどの情報、ダイナミクスの変化、テンションやスケールの選択や、譜面にはないリハーモナイゼーションに気づくことができるか否か、など多岐に及びます。

もちろん「音楽そのものの理解」という知識面がバックグラウンドとして必要なのですが、とはいえいくら豊富に知識があっても、聴いてわからない(気づかない)ことには対処のしようがありません。

楽器の演奏スキル

音楽について十分な知識があり、演奏中に起こっている様々なことを捉える耳と判断力があっても、楽器の演奏スキルが未熟では、せっかくの自身のアイディアがメンバーやお客さんに届きません。

楽器の演奏スキルとは、自身のイメージを楽器で表現できることです。

楽器の演奏スキルは、ピッチやリズムなどを正確に表現すること、アーティキュレーションやダイナミクスのような表現の幅が広いこと、よく通る豊かな音色で演奏できることなどいくつかに大別することができます。いずれも身体的スキルが求められます。

例えば、リズム(タイム)に対しては、スポーツ選手並みのシビアさが求められると考えることもできるかと思います。一瞬のミスでリズムががたがたに崩れるということはよくあることです。楽器の演奏は、スポーツのような全身運動ではないものの、いくつかの動きを協調させて楽器を正確に操作するための緻密な身体の動きを習得することは、スポーツの技術習得ととてもよく似ているように思います。

実際に、指導しているとフィジカルなスキルに関してはスポーツ経験者のほうがそうでない人と比べて習得が早い傾向があるようです。

まとめ

ベースの演奏技術、あるいはジャズの演奏スキルがとても総合的なものであることが理解できたと思います。

レッスンをしていると、「うまくなりたい」と皆さんおっしゃるのですが、自身の今の課題は何で、そのためにはどのような練習が必要か、というようにできるだけ具体的かつ正確に練習の目的や方法、期待される効果について理解して取り組むことが必要だと感じます。

パフォーマンス向上のためには、楽器の演奏技術を高めることや、ベースラインやソロの方法を学ぶことに加えて、「聴いて分かる」こと(イヤー・トレーニング)や楽曲について丁寧に学ぶ必要があることもきちんと意識できるとよいでしょう。