よくジャズのコード理論が覚えられないという話をききます。
そもそも理論が何の役に立つのか実感できない方、イメージできない方もいらっしゃるでしょう。
「理論なんて必要ない。要は感性だ!」という意見も耳にします。もちろん、感性だけで素晴らしい演奏をする方もいます。実際のところ、音楽は演奏が始まれば止まってくれないので、ステージの上で理論から発想していてもとても間に合わないので、この意見は正しいといえます。理論はむしろ、練習で発想を広げるために役に立つことがあるともいえるのかもしれまえん。
皆さん、ジャズ理論はどのように学べばよいかご存知ですか。マーク・レヴィンの「ジャズ・セオリー」のような書籍を買って読んだり、最近は解説しているサイトやブログをチェックしたり、あるいはYouTubeなどの動画を視聴したりして理解を深める方もいらっしゃるでしょう。
自分自身はどうだったかというと、確かに本も読みましたけれど、譜面をリハーサルや本番に持っていってうまくサウンドしなかったところを家に持ち帰って試行錯誤したり、あるいは、先輩ミュージシャンから指摘されて学んだり、ということが中心だったと思います。
それから、なんといってもケース・スタディですね。これはどの分野にもいえることですが、何か課題を抱えている、あるいは何かを改善したいということであれば、成功事例から学ぶ、あるいは失敗事例を他山の石とするということもあるかもしれませんが、要するに「みんなどうしているんだろう」というところから始めることが重要だと思います。ジャズの場合は、レコードから採譜することですね。
そして、分かったことを自分で整理していきます。私のイメージでは、自分専用の「辞書」をつくっていく作業に近いと思います。
例えば、私の辞書の「II7」の項目には、まず「ダブル・ドミナント」という説明があり、次に、主な進行先として、V7(ドミナント)とその代理の♭II7、それから、I/Vなどが書いてあります。メジャー・キーの場合はサブドミナント・マイナーIVm6にも進行するケースが多いことも書き込んであります。そして、対応するスケールは、メジャー・キーの場合、原則としてミクソリディアンやミクソリディアン♯4のように長9度と長13度を伴うもの、マイナー・キーの場合、フリジアン♯3やオルタードのように短9度と短13度を伴うことが多いと書いてあります。もちろん原則には例外があって、メジャー・キーであっても Gee Baby, Ain't I Good To You の3小節目前半のようにブルージーな場合(ブルー・ノートが使われている場合)には、オルタード・スケールのように短9度や短13度を持つスケールが対応することもあると整理されています。
このようなことは、理論書を丁寧に読めばきっと書いてあるに違いありません。理由や譜例が書いてあって、それを鍵盤で弾いて確認してみる、あるいはレコードを実際に聴いてみることで、気づいたり納得することもあるでしょう。しかし、その記憶が果たしてどれだけ残るのか。
書いてあるから鵜呑みにするような学習法がまったく不要だというつもりもありません。それがきっかけで理解が深まらないまでも、問題提起になることは私自身も経験しなかったわけではありませんから。
ただし、音楽は実技ですから、頭で理解できたことを演奏や作編曲のような実際の表現に生かすことがとても重要です。そのためには、レコードや実際の演奏を聴いたときに、すでに学んだこと、理解したことについてきちんと気づくこと、認識できるかが重要です。
例えば、ダブル・ドミナント II7 が演奏されたときにそのように気付けるか、そして、対応しているスケールが、長9度+長13度のものか、短9度+短13度か、それともそれ以外かが聴いて分かること、そして、その理由があればなぜかが分かること、こういったことがとても重要だと思います。
私がジャズ理論のレッスンで、教科書的な説明をしつつも、それ以上にみなさんと音源を一緒に聴く時間を大切にする理由はここにあります。同じ説明を繰り返しながら、一緒に音源を聴いて「ポイントアウト」する理由は、自分自身で自分専用の辞書を作り上げる過程で、同じ音源であっても理解度によって聞こえ方が徐々に変わっていくという経験を経てきたからです。
同時に、自分自身が頭のなかで作り上げてきた「自分専用の辞書」をまとめたら面白いかなとも考えて、気まぐれで「ジャズコード辞典」というサイトで少しずつまとめています。これは、非常に骨の折れることなのですが、ライフワークとして少しずつ取り組んでいけたらよいのかなと思っています。本当は読むだけで面白い内容になるとよいのでしょうけれども。