これは初心者から中級者くらいのベーシストに心当たりの方がものすごく多いのではないかと思われるのですが、ジャズのアンサンブル中に、「ベースが遅い」とか、あるいは、「もっと前で」とか「ビートのトップで」といわれる経験は多いと思います。
これは、自分自身でもわかっている(けれどできない)こともあれば、ほとんど自覚がないこともあるかもしれません。いずれにしても、ほかのメンバーからみて、ベーシストの演奏がやや遅れて聞こえるというケースは少なくないどころか、とても多いといえます。
今回はこのことについて説明するとともに、対処法についても示したいと思います。
「遅い」とはどういうことか
それでは、「遅い」とか「遅れる」とはどういうことなのでしょうか。
文脈や使い方によって一概にはいえないのですが、一般に「遅くなる」と「遅れる(遅い)」はニュアンスだけでなく現象も少し異なります。
「遅くなる(遅くなっていく)」とは、文字通りテンポが遅くなることです。例えば、BPM184で始めたはずが、曲の途中や終わりには144くらいまで落ちているような現象をいいます。
一方、「遅い」とはテンポが必ずしも遅くなっているとは限りません。たとえテンポが一定あるいは適切であるにもかかわらず「遅い」あるいは「遅れる」ということは十分あり得ることです。これはどういう状態かというと、ほかのメンバーの感じているビート(拍)に対して、実際の音(この場合、ベースの音)が多少遅れて発音されている状態をいいます。例えるならば「遅出しじゃんけん」のようになっていると考えたらよいのではないでしょうか。たとえ、テンポが早くなったとしても、ベースが「遅い」あるいは「遅れる」ということは十分考えられることです。
拍に対してベースが「遅い」あるいは「遅れる」原因にはいくつか理由があります。
ベースは押さえてからはじく
まず確認すべきことは、ベースという楽器を演奏するとき、左手で弦を指板に対して押さえつけてから、右手で弦をはじいているということです。右手で弦を弾いてから左手で弦を指板に押さえるわけではないのは当然として、左手で弦を押さえるのと右手で弦をはじくのが同時に行われているのではありません。右手で弦をはじく前に、左手でしっかり弦を押さえておく必要があります。
ところが、ベーシストにとって、次にどの音を演奏するかということはとても重要なことです。その音が指板上のどの位置にあり、どの指を使うか、シフティング(ポジション移動)や移弦の必要性の有無など、運指のこともきちんと意識する必要があります。
このとき、運指の迷いが遅れにつながる恐れがあるのですが、そうではなくて、運指が順調だったとしても、ベーシストが拍に対して「遅れる」状態で演奏しているケースはそう珍しいことではありません。
そのようなベーシストは、多くの場合、左手でリズムを取っているのです。つまり、例えばウォーキング・ベースラインの場合、4分音符が続くわけですが、音の変わり目、すなわち、左手を動かすタイミングが、およそ拍の頭のところにきているのです。
これはおそらく無意識のことも多いでしょう。ところが、実際そうなっている人は少なくないのです。ベースは左手で押さえてから右手ではじきます。すなわち、左手で弦を押さえてから実際に音が出るまで、若干ラグがあります。もし、無意識で左手で弦を押さえたタイミングと拍のタイミングが一致したとすれば、ベースの音がワンテンポ遅れるのは明らかです。
ベースが拍のところできちんと音を出すためには、左手はそれよりもわずかに早いタイミングで弦を指板に対してしっかり押さえておく必要があります。これができていないベーシストが少なくありません。
左手で弦を押さえてから右手ではじくというということは至極当然なことではありますが、「遅れる」「遅い」といわれている(あるいは自分でもそう思う)ベーシストは、ぜひこのところを見直して改善する必要があります。
ベースの音は右手の指が弦から離れてから発音される
さらに重要なのは右手の動きです。
ジャズのベースのピッツィカートでは、左手の指が指弾する弦に向かって動き始め、そして弦を捉えてそれを引っ張って、弦が指先を離れた直後から、楽器が鳴り始めます。つまり、楽器が鳴るのは、弦が右手の指を離れてからなのです。
したがって、これもよく考えたら至極当然なことなのですが、楽器を鳴らすための右手の動作は、楽器が鳴るよりも前からスタートさせていなくてはいけません。
先ほどの説明で、左手の動きでタイミングをとっていれば当然「遅れる」ということは理解していただけたと思います。それでは右手でタイミングを取ればよいのだな、と気づいた方もいらっしゃるかと思います。考え方はそれでよろしいのですが、では、右手のどの瞬間でビート(拍)を感じたらよいのか。
弦をはじくために振りかぶるタイミングで拍を感じたら、間違いなく遅れます。それなら、振りかぶった右腕によって、右手の指が弦に触れた瞬間でしょうか。それも違います。
正しくは、弦が右手の指先から離れたタイミングでビート(拍)を感じるとよいのです。実際に、弦が指先を離れてから楽器が鳴り出すまでにはさらにほんのわずかなラグがあるので、それでも「遅い」といわれるのかもしれませんが、それくらいシビアなものなのです。
右手の指が弦を横切る速度は一定?
さらに右手で弦をはじく速度について考えてみましょう。
例えば、テンポ200以上の比較的軽快な曲を弾くとき、そして、テンポ120前後のミディアム・テンポを弾くとき、そして、テンポ60前後のスローな曲を弾くとき、それぞれのベースラインの4分音符、あるいは2分音符で、右手の指先が弦を横切る(引っ張って話す)速度というのは同じであるべきでしょうか、それとも変えるべきでしょうか。
私は、最終的な音楽表現として、右手の指が弦を横切る速度はそのときの状況によって適切に変えるのがよいと考えます。しかし、原則として、ニュートラルな表現であれば、テンポにかかわらず右手の指が弦を横切る速度は一定と考えて練習するほうがよいと思います。
実際、アップテンポでは素早く弾かざるを得ないので当然早く横切りますが、スローなテンポではゆっくりと(もっさりと?)弦をはじいているケースが少なくないように思います。これが果たして、期待通りの効果になっているかどうか、しっかり顕彰してみるべきではないでしょうか。
少なくとも中級者くらいまでの多くのベーシストは、スローテンポにおいて右手の指が弦を横切る速度は遅すぎるように私には思われます。
トレーニング方法
まずは、開放弦で練習しましょう。
メトロノームをテンポ60〜100の間で鳴らしましょう。これを4分音符(1拍)と感じて、2分音符を演奏してみましょう。
このとき、メトロノームのクリック音に対して正確に発音することを心がけましょう。
メトロノームとベースの音が同時に発音されたとき、メトロノームのクリック音は聞こえにくくなるはずです。つまり、正確に演奏できていたら、ベースが発音しない1拍ごとにメトロノームがクリアに聞こえてくる状況になるはずです。
反対に、ベースの発音がメトロノームのクリック音に対してわずかにずれていると、メトロノームの音は比較的クリアに聞こえてくるはずです。そうならないようになるまで、開放弦をゆっくりとしたテンポで練習しましょう。
2分音符で百発百中、正確に演奏できるようになったら、次にテンポはそのままで4分音符の開放弦を練習しましょう。
適切なタイミングで演奏しているとメトロノームのクリック音は意外と聞こえてこないはずです。不安になった瞬間にテンポが微妙にずれて、途端によく聞こえるようになります。そうならないように、しっかり練習しましょう。また、指が弦を横切る速度は、テンポを変えたり、2分音符と4分音符を弾き分けたりする際にも一定になるようにしっかり意識するとよいでしょう。
これがなかなかできるようにならない人は、メトロノームを鳴らしてからテンポを十分につかめないうちに練習を始めているケースがみられます。メトロノームを鳴らして、そのテンポを十分感じられるようになるには一定の拍数が必要なはずです。これをせずにメトロノームに向かって、できない、できないとやっている人が一定割合でいらっしゃるようです。
実際の演奏では、カウントや誰かのイントロはとても重要で、非常に集中力を使うのですが、メトロノームで練習するときも、メトロノームを鳴らし始めてから音を出し始めるまでの数拍(2〜数小節)は、本番同様にしっかり集中する必要があります。
開放弦が安定したら、今度は左手をつけてみましょう。
最初はB♭メジャー・スケールのような弾きやすいスケールを使って、まず2分音符、次に4分音符と練習しましょう。メトロノームがほとんど聞こえなくなることが目標です。
それができたら、ウォーキング・ベースラインも演奏してみましょう。
メトロノームを2拍目と4拍目で鳴らす方法が流行っているようですが、中級者くらいまでのうちは各拍で鳴らすことも重要ですし、1拍目と3拍目で鳴らすことにも意義があると思います。
同様にメトロノームのクリック音がほとんど聞こえなくなるまで正確に楽器をコントロールするようにしましょう。
まとめ
ベースが「遅い」あるいは「遅れる」といわれる原因は、実際にビート(拍)に対して発音が遅れていることが原因です。
そして、自覚しているか否かにかかわらず、左手で弦を押さえるタイミングでビートを感じたり、あるいは、右手が動き始めたり弦を捉えたりするタイミングで拍を感じていることが遅れの一因になっているケースがほとんどです。実際にベースが発音を始めるのは、弦が右手の指から離れた直後ですから、このタイミングでビートを感じるように習慣を変える必要があるでしょう。