ベースの指導をするとき、私はできるだけそのトレーニングや練習の意味や意義についてじゅうぶん納得していただいた上で取り組んでいただきたくのがよいと考えています。特に、コントラバスを始める年代はだいたい中高生以上ですから、何の役に立つかわからない練習を課題として出されるのは苦痛を伴うだろうし、そのようなことに時間を費やしても効果は不十分だと考えるからです。

しかし、それでもとにかく一日も早く身につけておいてほしいと考える練習項目があります。もっといえば、「早く身につけないと手遅れになるぞ」「あとあと公開するぞ」とさえ思うのです。

これらの多くは、楽器を構え方だったり、左手や右手の基本的な奏法であったり、あるいはスケールやインターバルなど音楽の土台部分を運指とともに楽器で演奏するスキルだったりします。つまり、フィジカルやメンタルなスキルの基礎の基礎の部分といえるでしょう。

例えば、学習が進んで比較的高度なベースラインやソロに取り組むときに、運指やスケールに対する基礎が不十分だった場合、一度、ソロなどの学習を止めて運指やスケールに取り組まなくてはなりません。これはせっかくのモチベーションを損なうことになります。

多少乱暴ないい方になりますが、私は「騙されたと思って取り組んでおけ」というようなことも芸事にはときとして必要なこともあると考えます。それは、指導者が後悔したことを相手にはさせたくないという願いや反省も込めれれていることもあるのではないかと考えます。「後悔先に立たず」ではありませんが、学習者には必要性のわかりにくいものの、できるだけ早く習得すべきスキルというものがいくつかあって、そういう技術をできるだけ身につけて、「テクニックの貯金」のようなものを積み立てておくことが大切だと考えます。

算数の九九は小学校2年生で習うと思うのですが、小学校低学年の子どもたちにとって九九は生活にそれほど必要ではないに違いありません。しかし、本当に必要になってから九九を覚えても、おそらく手遅れなのだと思います。あのような「暗記」は頭の柔軟なときに済ませておくとよいということで、おそらくあの時期に暗記させるのだと思います。

先ほど述べたように、コントラバスを始める時期は、ほかの楽器と比べると比較的遅めだとは思うのですが、それでも、変な癖がついてからそれを直すくらいなら、はじめから「正しい癖」を叩き込んでおくことがはるかに効率的といえます。

ですから、私のレッスンでは一人ひとりが取り組みたい曲の練習、ベースラインやソロといった実践的なトレーニングとは別に、必ず基礎練習の課題に取り組んでいただいています。このトレーニングはときとして退屈を通り越して苦痛を感じることもあるかもしれないことは認めますが、それでも必ず「やっておいてよかった」と感じられる日が来ると信じて取り組んでいただければと思います。