今、レッスンをご検討中の方のなかには、レッスンを初めて受けようとされている方もいらっしゃれば、あるいは、以前受けたことがあるけれども挫折した経験がある方もいらっしゃることでしょう。 また、ジャズやベースのような音楽以外に、スポーツや美術などのレッスンを受けたり、クラブに所属していた方もいらっしゃるかもしません。

私のレッスンに限らず、そもそも、ジャズを学ぶこと、楽器の演奏を学ぶこととはどのようなものかをより正確に理解していただくために、チェックリストをつくりました。

1. ジャズが、ほかの趣味と比べて初期の学習コストが高めであることを理解していますか?

例えば、スポーツの場合、ボウリングや卓球のように、最初から専門家から指導を受けなくても楽しめる競技があります。 また、水泳やスキーを専門家の指導を受けずに身に着けた方もいらっしゃることでしょう。

他方で、スキューバ・ダイビングや格闘技のように、専門家の指導なしに技術を身につけることが困難な競技があります。 危険を伴ったり、特別な技術が必要だったりする種目が当てはまるでしょう。

ジャズは、独習が不可能なわけではありません。 しかも、誰かと合奏して楽しめるまでに必要なスキルや知識は、趣味のなかでは比較的高めだと考えることができるでしょう。

2. ジャズの習得や上達のためには、継続した取り組みが必要であることを理解していますか?

専門家になるための学習時間の目安は、一説によれば1万時間くらいだそうです。 もちろん、これをご覧の皆さまが全員、プロのミュージシャンを目指しているわけではないでしょう。 それでもジャズを趣味として楽しめるようになるための学習コストは高いと考えられます。 一概にいえませんが、まずは1,000時間が最初の目安になるのではないでしょうか。 これは、一日平均3時間取り組んで約1年、一日平均1時間だと約3年かかります。

私のレッスン時間は約90分ですから、月に1度レッスンを受けていただいたところで、年間18時間に過ぎません。 したがって、ジャズの習得や上達のための時間は、個人で取り組む時間ということになります。 レッスンは、個人での取り組みについて成果を評価し、次に取り組むべき課題を示し、その取り組み方を明らかにする、いわば羅針盤のような働きに過ぎません。

レッスンを受けていれば、自動的に上達するわけではありません。 ご自身の継続的な努力なしに上達した人を、私は一人も知りません。

3. ジャズの演奏は、ほぼすべての人が達成可能だということを理解していますか?

例えばスケートの難易度の極めて高いジャンプは、スケートに対する情熱があって人一倍の努力をしても、全員が達成可能とは限らないでしょう。 鉄棒の逆上がりでさえ、いくら練習しても全員ができるようにならないのかもしれません。

ところが、コントラバスを始めとした楽器の演奏は、適切な方法で必要なトレーニングを積み重ねていきさえすれば、少なくともジャズを相当深いレベルで楽しむことのできるレベルにはほぼ全員が到達します。 なぜなら、高度なスポーツと比べると、そこまで極限まで身体を酷使しないからです。

確かに、いわゆる「バカテク」といわれるような超速弾きのような特別なスキルは、プロも含めて誰もが身につけられるテクニックではないかもしれません。 しかし、そのような技術がジャズの演奏にとって必要不可欠とまではいえないでしょう。

もし、みなさんがなかなか上達しないのだとしたら、トレーニングを効果的な方法で行っていないことが要因であるといえないでしょうか。

4. ジャズを完全に独習で身につけた人がほとんどいないことを理解していますか?

大学や専門学校のような専門教育を受けなくても、プロとして活躍しているジャズ・ミュージシャンはたくさんいます。

しかし、ミュージシャンの自伝を丹念に調べれば分かることですが(例えば、ベーシストであれば John Goldsby著 The Jazz Bass Book をお読みください)、クラシックを含めた音楽教育をきちんと受けたミュージシャンはおそらく皆さんの想像よりも多いのではないかと思われます。

私の感覚として、独習で効果的で適切なトレーニング方法を継続的に行うことができるプレイヤーは、多く見積もっても数%にも満たないと思います。 正規の音楽教育でなくとも、一定期間、楽器の指導をきちんと受けたことのあるプレイヤーは意外と多いものです。

また、音楽理論は比較的独習しやすいといわれていますが、欧米の場合、小さい頃から教会のクワイヤーで歌ったり、音楽一家に生まれ育ったりと、恵まれた音楽環境で音楽の基礎を五感で身に着けたミュージシャンが少なくありません。

加えて、実際のライブやリハーサルの現場では、バンドリーダーを始めとした多くの先輩ミュージシャンから効果的なトレーニング方法を教わったり、自分の演奏や楽譜を評価してもらったりする機会があります。 まさに、毎日が「ジャズ・スクール」のような環境といえます。 したがって、正規の教育を受けていなかったからといって、必ずしもその人が独習でジャズを身に着けたとはいえないのです。 もちろん、私自身にもあてはまることです。

5. 音楽において、聞いてわからないことは表現できないことを理解していますか?

ジャズは、楽器の演奏技術があって、音楽の理論的な裏付けがあれば演奏できるとは限りません。 もう一つ重要なことは、音楽を聞いて理解できるリスニングの力です。

よいミュージシャンは、ほぼ例外なくよい耳を持っています。 一般によい耳とは、メロディやソロの聞き取りができること、コードを聞いて理解することだと理解されがちですが、実はそれだけではありません。

音楽表現、特にジャズ特有のリズム、アーティキュレーション、ダイナミクスなどを理解するためには、これらをきちんと聴いて理解できることが必要です。

あるいは、ジャズでは演奏中に機転が求められることがありますが、アンサンブルにおける各パートの役割、実際にメンバーが何を演奏しているか、あるいは、演奏がどのような方向に進行しようとしているか、といったトータルな視点から音楽全体を捉える必要もあります。

このように、音楽のさまざまな要素の細部から、全体的な流れに至るまで正確に聞き取る耳の力がとても重要です。 そのためには、イヤー・トレーニング(耳の訓練)をが必要不可欠であることはいうまでもありません。 欠かさずに耳を訓練することで、演奏中、あるいはレコード(音源)を聴いたときに聞こえ方が徐々に変わっていくことに気づくでしょう。 この経験と楽器や表現の上達は必ずセットになっているのです。