独学は、とにかく回り道をしがちです。 例えば、以下のような状況に陥りがちです。

  • 練習や学習の方法やどの程度までトレーニングしたらよいかがわからない。
  • トレーニングや学習の順序が適切ではないので効果が上がらない。
  • さまざまな練習方法や知識に振り回されて、どれも中途半端になりがち。
  • 悪い演奏フォームや、誤解や思い違いを抱えたままになりがち。

たちが悪いのは、たとえ自分がこのような状況に陥っても自分では気づきにくいのです。

例えば、スケール練習について、スケール「を」練習するほかに、スケール「で」フィジカルなスキルやマナー(コントラバスの場合、シフティングや「準備」の動き)についてきちんと強化しているでしょうか。 あるいは、ジャズで使われるさまざまなスケール(例えばリディアンやオルタード・スケール)について、それに基づくソロを耳にしてそれと気づいたり、あるいは自分の楽器で自在に演奏できるようにトレーニングしているでしょうか。

あるいは、楽器の教則本や理論書について、きちんと最後まで終えることなく、別の書籍に手を出していないでしょうか。

音色の改善を、自分の演奏技術や姿勢に十分向き合わず、楽器の調整や機材(ベースの場合、弦高などの調整、弦やピックアップやアンプの選択)などで行おうとしていないでしょうか。

私は最初の数年間を独学で取り組んできました。 自分なりに順調にスキルアップしていたきたつもりなのですが、あるお店のマスターの半ば強引な勧めでベースのレッスンを受けることになりました。

正直なところ、あまり乗り気ではなかったのですが、「もっと早くレッスンを受けるべきだった!」というのが初回レッスンの直後の率直な感想でした。 例えば、左手の形にしても「自分なりに注意しているつもり」でしたが、求められる精度やそのためのトレーニング方法があまりにも違いすぎたのです。

このように、自分では「知ってるつもり」「取り組んでいるつもり」「できているつもり」でも、実はそうではなく、まだまだ改善や上達の余地があったり、あるいはより効率的なトレーニングや学習の方法があったりと、自分自身の創意工夫や試行錯誤ではすぐにはたどり着けない先人たちの経験の知識の蓄積に、レッスンを通じて簡単にアクセスることができるのです。

これは、楽器の演奏技術だけではありません。

ジャズのアンサンブルが具体的にどのような作法(マナー)で行われているか、結果それっぽくできていれば満足しがちですが(私もそうでした)、自分たちのやり方を突き詰めていけば、本当に幅と奥行きがあり、しかもとてもスリリングでわくわくする演奏に行き着くのかということはしっかりと考えるべきでしょう。

例えば、テンポ・ルバートの演奏やリタルダンドやフェルマータをかけるときは、「見えないボール」を想定することでとても円滑に行うことができます。 アンサンブルには見えないボール(リレー競技のバトンやたすきのようなもの)が1つだけ存在していて、そのボールがメンバーの誰のところにあるか、そしてボールを保持している人がどのように演奏するかをきちんと理解することで、音楽は進行していきます。 そして、この考え方が徹底されれば、テンポ・ルバートをメロディ(例えば歌手)とピアニストの2人で行うだけでなく、バンド全体で行うことも可能になりますし、実はイン・テンポでの考え方にも応用ができるので、とても見通しのよいアンサンブルが実現されるという効果もあります。

今はインターネットによって、さまざまな情報に対して視覚的にアクセスできるようになりましたが、それでも音楽理論、アンサンブルの作法、演奏技術などの本質を学ぶことは困難です。 そのときはなんとなく分かった気になっても、それが日頃のトレーニングや学習を中長期的に変えるまでは至らないことがほとんどである以上、結果に反映されないことは自明のことです。

レッスンのよいところは、対話的に行われることです。 先人たちの経験知に直接触れ、そして到達度や興味関心に応じた課題を適切に設定することで、トレーニング方法や学習方法を大きく見直すことができるのです。

レッスンを受けることがタイムパフォーマンスの向上につながる理由は次のようにまとめることができるでしょう。

  • 回り道をせずに学習やトレーニングをすることができるから。
    • 特に一度見についてしまった悪い癖を直すには非常に忍耐と時間を要する。悪い癖を身に着けてしまうくらいなら始めからきちんと学んだほうがよい。
    • ベースの奏法にしてもジャズ・セオリーにしても、同じ本質に対して複数のトレーニング方法や説明がある(登山ルートが複数あるようなもの)。レッスンを受けることで一貫したメソッドのもとで習得できる。
    • 採譜したソロやコード進行について誤りを指摘されることで、より確実に理解を深めることができる。このプロセスは、イヤー・トレーニングに対しても絶大な効果を発揮する。
  • 一人ひとりの目標や到達度に応じたメード・トゥ・オーダーだから。
    • 独習では気づきにくい「躓き」について、丁寧なトレーニングや説明で克服できる。
    • 難しすぎる課題には、ステップを分割して一歩ずつ習得できる。
    • 質問や添削の機会を通じて、より深く確実に知識や技能を習得できる。
  • 体系的な学習により、必要な技術や知識を確実に学ぶことができるから。
    • 学習者には困難な短期的、中期的、長期的スパンでカリキュラムの組み立てをしてもらえるので、学習の抜け落ちがなく、また目標を見失いにくい。
    • 定期的なレッスンの受講は、強力なペースメーカーとなる。仕事、勉学、家庭などの事情で十分な時間が確保できないようなときにも、また定年退職後のように悠々自適なときにも、効果がある。
    • 定期的なレッスンの受講によって途中で学習が停滞することを防ぎ、モチベーションを維持することができる。