ジャズの理論を習いたいという人は、最初にピアニストに相談する方が多いそうです。 確かに、ピアノはメロディもコードも、ときにはベースラインさえ演奏します。 とても優れたソロを演奏するピアニストもとても多いのも事実です。

また、ビッグ・バンドの指導を依頼するときには管楽器奏者に相談するケースが多いようです。 確かに、ビッグバンドの過半数、それどころか7割以上は管楽器奏者です。

ベースの技術を習得したいと考えたときには、ベーシストに相談することが大半のようです。 ベースの技術のこと、運指のこと、それにベースラインの作り方はベーシストがもっともよく知っているはずです。

さて、果たしてそれでよいのでしょうか。

ベーシストがベーシストから学ぶべきこと、ベーシスト以外からしか学べないこと

コントラバスの身体の使い方、すなわちフィジカルなスキルは、コントラバス奏者しかレッスンをすることができないはずです。

ベースラインならば、ほかの楽器の方でも多少指導はできるかもしれません。 それでも、ベーシスト、特に初心者が演奏しやすいベースラインとなると、やはりベーシストが指導したほうが間違いはないでしょう。

ところが、ベーシストにとって必要なあらゆる知識や技能を、すべてベーシストが指導することができるのでしょうか。

答えは「否」です。

ジャズのアンサンブルにおいて、ベーシストは原則として1人しかいないため、ベーシストがほかのベーシストと共演することは基本的にありません。 したがって、アンサンブルの仕方、具体的には、ソロのコンピング、ピアニストやドラマーとのコンビネーション、ダイナミクスやコード・ワークが適切化どうか、リズムの善し悪しなど、共演者にしかわからないような微妙な表現について、ベーシストはベーシストに対して指導することが困難です。 技術や理解な未熟であることによる明らかな問題ならともかく、共演者だけが感じるようなアンサンブル上の機微に関してはお手上げでしょう。

私自身、ベーシストから学んだことと同じくらい、あるいはそれ以上のことを、共演者からのアドバイスや率直な感想(お叱りや苦情も含めて)から学びました。 それは、ピアニストであったり、ボーカリストであったり、ドラマーであったり、管楽器奏者であったり、さまざまです。

ベースのレッスンを受けなかったら今の自分が決してないのと同様に、共演者からの助言や指導がなくても今の自分はないものと思います。

ベーシストから学ぶべきこと

同様のことが、ほかの楽器奏者や歌手にもいえると私は考えます。

例えば、ビッグ・バンドであれば、同じセクションの先輩プレイヤーから楽器の奏法だけでなく、メロディの歌い方やアンサンブルの方法など、非常に実践的な技術や知識を学ぶことができるでしょう。 加えて、同様にリズム・セクションを始めとしたほかのセクションからの指導や助言でしか得られない実践的なスキルも決して少なくないはずです。

しばしばベーシストは、野球のキャッチャーに例えられます。 キャッチャーは守備のなかで、一人だけ反対の方向を向いています。 同様に、ベーシストは、たいていバンドボックスの一番後ろに控えており、ほとんどすべてのメンバーが常に視野に入れることのできる数少ない楽器です。

音楽的に見ても、メロディに対して対位法的な演奏をしていますし、同時に、ハーモニー(コード)やリズムの根幹にも深く関わっています。 サウンドの濃淡、ダイナミクス、抽象か具象かなど、さまざまなことにも直接間接に関わっているともいえます。 音楽のほとんどすべての要素の要に立っていると考えることもできます。

音楽を総合的に捉える力を持っているベーシストは決して少なくありません。 チャールズ・ミンガス、チャーリー・ヘイデン、デイブ・ホランドなどは、ベーシストとしてだけではなく、バンド・リーダーやコンポーザーやアレンジャーとしても高い能力を発揮しています。 スティーブ・スワロウ、ジャコ・パストリアスなどを加えることもできるでしょう。

大事なのは、担当楽器ではなく真摯に音楽を学んでいるか

自身の成長にとって、教師選びはとても重要です。

そして、大切なのはどの楽器を演奏しているか、ではなく、信頼できる知識や技能を持っているか、そして、それを学習者の到達度やニーズに応じて適切に伝えてくれるかどうか、ではないかと思います。

例えば、ジャズ・セオリーについて学びたいのであれば、日頃からジャズについて深く研究している人の指導を受けるべきです。 また、楽曲研究をしたいのであれば、日頃からさまざまな音源を深く研究している人の指導を仰ぐのがよいでしょう。 アンサンブルについて学びたいのであれば、ジャズ・アンサンブルの基本原理や各パートの役割について適切な知識と感性をもち、それを再現可能性のある方法できちんと指導できる人に学ぶのが早道です。

私が、その立場にあるかどうか問われると返答に窮してしまいますが、ここで申し上げたいのは、重要なのは担当楽器ではなく、学びたい知識をきちんと習得しているか否かだということです。 ただし、アンサンブルの機微について個人的に深く学びたいのであれば、ご自身とは異なる楽器の人に学ぶべきです。 したがって、あなたがベーシストであれば、この分野に関しては私以外の教師を探すことを強くお勧めします。

私の得意分野

ベースに関しては、特に奏法(フィジカルなスキル)、運指の研究は、平均的なベーシストよりもやっているのではないかと自己評価しており、一部はYouTube等で情報発信もしています。 また最近は、ベーシスト以外の楽器のソロを採譜して、ベースで取り組むこともあります。

音楽理論については、主に事例研究を通じて知識をアップデートしているつもりです。 従来の音楽理論よりもよりシンプルでかつ高い精度で説明できないか、という問題意識を強く持っており、一部は専用のウェブサイトである「コード時点」で公開しています。

楽曲研究については、曲ごとに音源を数テイクから数十テイクほどを集めたものを年代順に並び替えて分析するという手法で行っています。 現在のところ100曲程度でまだまだなのですが、それでも平均的なジャズ・ミュージシャンよりは取り組んでいるのではないかという自負はあります。 また、ハードバップの曲を中心に2-3管編成のアレンジメントを、録音時に譜面や口頭でどこまで指示があったかを音源から推理して復元するという作業を継続的に行っています。 この作業から、理論的なこと、アレンジについての知識のみならず、アンサンブルについてのさまざまな発見があり、演奏活動や教育普及活動にも大いに役立てています。

また、楽譜のない楽曲については、歌詞とさまざまな録音をもとにストレート・メロディを復元するということも必要に応じて行っています。

レッスンをご検討の方は参考のうえ、ご不明な点はメールにておたずねください。